女の瞳には迷いがなかった。 とうに命を捨てている澄んだ瞳。 過去に囚われた哀れな美しい女 この女は前を向いているのが似合う。 『抗え・何に・運命に』 敵わない相手に正面からぶつかって行くなんて死ぬ気か? そう問えばきっと凛と背筋を伸ばし答えるだろう。 「否!」 死ぬことを恐れていない。 いや、むしろ死んでもいいとさえ思っているくせに。 迷いのない危うい瞳の女。 強くそして脆い女。 変えてみせろお前の運命を。 お前の思うように。 その為にここで潰えるのも悪くない、か。 ほんの少し愉快な気持ちになった。 「オロチを止めるなら今しかないぞ」 ポツリ呟くと驚いたような視線を感じた。 俺は見たかったのかもしれない。 オロチの呪縛から解き放たれたときの女の姿を。 瞳を。 今なら言えなかった言葉が言えるような気がした。 「……」 声にならない言葉のかわりに大量の血が溢れた。 最後まで戯言は言わせてもらえないらしい。 もう、終わりが目前に迫っている。 朧になった視力の中で俺の血にまみれた神楽は壮絶に美しかった。 |