買物から帰ってくると、ウルリカとペペロンが抱き合っていた。
 いや、正確には――
 ウルリカが、ペペロンの膝に座っている。それも、向き合う方向で。
 思わず買物袋を投げつけそうになったが、際どいところで自制する。
(妬くようなことじゃない)
 ウルリカは、ペペロンを口悪く罵り、ぞんざいに扱うが、あれで彼を大事に思っている。ペペロンも彼女を大切にしていた。時に距離が近づきすぎるのも、そのせいなのだ。
 無欲に、ウルリカの役に立とうとするペペロンを、ロゼは尊敬していたし、彼女に何かするはずないと、信頼もしていた。だから顔を背けて、見なかったことする。
(どうせ、ウルリカがまた何かやったんだろ)
 それを受け止めたとか、助けたとか、そんなことに違いない。
 羨ましい――と、思わないでもないが、まあ、いつも頑張っているご褒美だ。こんな日もあっていいだろう。
「大人しくしてくれたら、キスしてあげるっ」
 ウルリカの言葉を聞くまでは、本当にそう思っていたのだ。
   

「ハンバーグのミンチにしてやる!」
 余裕がないくせに、甘い顔をするものじゃない。
 逃げるペペロンを追って走りながら、ロゼは考えていた。仲が良いにも程がある。しかも彼の肩の上では、ウルリカがいかにも楽しげに笑っている。なんだあの笑顔。
(俺にはあんな顔しないくせに!)
 笑顔を向けられたことがないではないが、とても貴重だ。それなのに、今ウルリカは満面の笑顔で笑い続けている。無邪気で、明け透けで、裏のない笑顔は、ロゼの好むものではあるけれど、今のそれには、どこか甘えまで混ざっていた。
 どんなに焦っていても、自分がはしゃいでも、ペペロンは絶対に落とさないという確信。何を望み何をしても、彼だけは自分を見捨てない、傷つけないと知っているのだ。
 あんな笑顔を、自分にも向けてほしい。
(八つ当たりだ)
 分かっていて剣を振る。紙一重でかわされた。
 全力で攻撃しても、ペペロンには当たらない。当然、担がれているウルリカには、掠りもしない。知っているから、理不尽な攻撃を本気で仕掛けられる。
 結局、自分だってペペロンに甘えているのだ。
(どうせウルリカには、俺が何を怒っているかなんて、分からないし)
 思った瞬間、足を砂に取られた。
 突っ伏するように顔面から、砂浜に倒れ込む。これ幸いと、ペペロンはすたこら走り去っていった。
(……畜生)
 自分で自分の考えに傷ついた。こんなに必死なのに、本人に欠片も伝わっていないって、どうなのだ。
 倒れてしまえば、体力の消耗も激しく、気力も著しく減退し、立ち上がる気がなくなった。
(もういい)
 拗ねた心境で、そのまま砂に埋もれることにする。
 どうせ帰りに、ペペロンが掘り出してくれるだろう。それまでここで、不貞腐れていよう。
 ロゼはそう決めて、目を閉じた。
 暑い。夏なんて大嫌いだ。





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