いつかまた後その時に
「さて、どうするかな」
クラウドの呟きに、足元にしゃがみこんで小石を拾っては投げ、拾っては投げしていたユフィが顔をあげ
る。
「ニブルヘイムに帰ればいいじゃん。ティファ待ってるよ。きっと」
もっとも、数時間前に別れたばかりだが。
星を救うという壮絶な戦いを終え、戦士たちはみな待つ者のいるところへ帰っていった。
ある者は愛しい娘の下へ、ある者は生まれた故郷へ、ある者は守るべき村へ、そしてある者はやり残した
仕事のある場所へ…。
すべての始まりと終わりの街、ミッドガルからそれぞれの別れの言葉を残して帰っていった。一人、また
一人と去っていく中、これからの行き先を決めかねているユフィとクラウドの二人が未だこうしてこの場
所に残っている。
「お前こそ、親父さんのところへ帰らないのか?」
「ん〜」
反対に問いかけられ、ユフィは唸った。
「あたしさ、まだ帰るわけにはいかないんだよね」
「どうして?」
背負っていた愛用の大剣を外し、クラウドはユフィの前に腰を下ろす。その顔はちょっといたずらっぽく
笑っていたがユフィは気づかない。
「神羅はいなくなった。マテリアも数え切れないほど集めた。まだほかに何かあるのか?」
神羅とはつい先日まで権力をほしいままにしていた大企業で、星の命を縮めた張本人でもある。まぁ、厳
密に言えば人間そのものが原因ではあるが。
今まで人は魔晄というエネルギーに頼って生きてきた。魔晄は星の力、命の源で、失えば当然のように星
は弱ってしまう。
それを魔晄炉を使い、吸いとって人間を支配する道具として使っていたのがユフィの村を武力で制圧した
神羅グループだった。
「戦ってるうちになんかもっと大きなものが見えてきたってゆーかなんてゆーか…」
民のために降参をした村長である父親の心をまだ理解出来なかったユフィは、村の再起のため家を飛び出
し、魔力を秘めたマテリアを探す旅に出て、星のために戦っていたクラウド達に出会った。
そしてすべてが終わった今、クラウドの言うとおり当初の目的は形は違えど達成され、旅をする理由も無
くなっている。しかしそれはユフィにとってあくまで過去、昔のことである。
「決めたっ。あたしまた旅に出る。刺激の無い退屈な生活なんて真っ平。そんな毎日送ってたらせっかき
く鍛えた腕がなまっちゃう。また神羅みたいなのが現れてもみんなを守ってやれるくらい、それくらい強
くなんなきゃだめなんだ」
「もう十分強いと思うぞ?」
「まだまだ!こんくらいで満足しちゃうようなユフィちゃんじゃあ、ありません」
握りこぶしを固めて気合ですっくと立ち上がり、ふっと思い出したように聞き返す。
「クラウドはどうすんのさ。本当にニブルヘイムには帰んないの?」
鉱山の町ニブルヘイム。一度は炎に包まれてしまったクラウドの故郷。
「あの場所に俺の求めるものはない」
「は?」
「俺は平穏や静かな生活を欲しいと思ってない。だから帰る気もないな」
「あっそ」
何も言うべき言葉が思いつかず、ただ相槌を打つ。自分に想いをよせる女の存在に気づいていないわけで
はないのだろう。だがクラウドはそれはそれとして見ていて、だからどうするとまでは興味がいかないら
しい。
<かわいそうなティファ>
先にニブルヘイムへ帰っておそらくはクラウドのことを待っているであろう仲間のことを思うと、少し同
情をしてしまう。
「まぁ、前から考えてはいたんだ。この戦いが終わったらもう一度世界を見て回ろうってな。俺もまだし
ばらくは旅を続けるさ」
「クラウドも?」
「あぁ。じゃ、そろそろ行くか。ユフィ」
ズボンをはたきながら立ち上がり、拾い上げた剣を革ベルトに差し込むとそのまま歩き出す。
「え?行くかって、何?どういうこと?」
ユフィは呆気にとられる。
一緒に旅をできるということだろうか。
正直、ユフィはこれまで一緒にいた仲間と別れるのが寂しくてたまらなかった。皆に会うまではずっと独
りで旅をしてきたが、仲間のいることの良さを知ってしまった今では昔のようにはいかない。いつも強が
ってはいるが何だかんだいっても16歳の少女。戦いが終われば別れがくることはわかっていたものの、一
人、また一人といなくなっていく度に心に隙間ができていくのを感じずにはいられなかったのだ。
クラウドは立ち止まり、振り返って軽く微笑すると言った。
「ユフィのことだからまたマテリア集めやるとかで旅に出るって言うと思ったんだ。子供には保護者が必
要だろ?手癖の悪いお前を野放しにするわけにはいかないし、それにお前の親父さんに娘を頼むって言わ
れてるし」
「そんな前のこと、…ってゆうかその前に、あたしを子ども扱いするなっていつも言ってるだろ!」
嬉しさを押し隠す。ここで素直に気持ちを表せないのがユフィの性格だった。
「さぁて、どこ行くか。ゴンがガ、ミディール、コルタ・デル・ソル…」
抗議を無視してさっさと先に進むクラウドに駆け寄りながら、顔が笑ってしまいそうになるのを必死にこ
らえる。
「クラウドはなんにも目標無いわけ?」
ユフィの質問に歩きながら軽く肩をすくめ、クラウドは答えた。
「それを探す旅ってのも悪くないだろ?」
いつかクラウドが目標を見つけたら、どうなるのだろう。
別れのときがきてしまうのだろうか。
<そん時はそん時考えればいいさ。きっとずっと後のことなんだから>
「……って、わわわわ!?」
考え事をしていたユフィは突然の地面の揺れによろけ、クラウドの腕に支えられる。
「さっそくのお出ましか」
大量の土を巻き上げ現れた巨大なワームにクラウドは剣を構えた。
「ユフィ、いくぞ!」
「はいよっ」
そしてまた、冒険が始まる。
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